2013年9月10日〜13日に開催されたヒューマンインタフェースシンポジウム2013@早稲田に10〜12日に参加しました。12日のポスターセッションでは、コミュニティ名義(hcdvalue)で発表を行いました。
気になったところをピックアップしつつ、記録を残しておきたいと思います。以下色々メモから起こしていますが、正確なところは発表者の方にお問い合わせください。(この記事を引用されると意味がズレる可能性があります)
ここで、安藤さんが「評価」そのものに対する観点として3つのタイプ分けを行なっていました。イノベーションの理想である「形成的評価」や「総括的評価」がこれまで求められてきていたが、これからユーザーエクスペリエンスについて評価する場合は、イノベーションの現実たる「埋め込まれた評価」をこれからは扱う必要がある、という主張だったと捉えています。
(開発されたあるイノベーションが、いかに現実の場で作用・既往するのかを、現実の場に居合わせる様々な人々の実践をデータとして仔細に観察・分析すること、評価はあくまでも変革がまさに起きつつあるその場に居合わせる人々にとっての意味を中心に構成されなければならない。)
その後、専門が社会学の秋谷直矩さん(京都大)のレクチャーがありました。社会学に対して全く素養がなかったので、とても大きな学びを得ました。専門は社会学、特にエスノメソドロジー・会話分析を専門とされているということでした。
社会学の探求対象として「ホッブズ問題」がある。目的に対して合理的に振る舞う(自然状態)があるが、それだと、血で血を洗う闘争状態(万人の万人による闘争)になるのではないか?→でも実際はそうなっていない…はて?→社会秩序はいかにして可能か、私たちはどうして他者と「いられる」のか?コンフリクトはあるのだけれど、なんとか生活することができている。
社会学は対象が様々過ぎる、かつ、アプローチが様々過ぎる。あまねくものに社会秩序がある。適切に振る舞う。→規範があるから、社会秩序がある!!
規範とは、私たちの振る舞いを特定の向きに方向づけるなにか。対象は幅広い。明文化された・明文化されていないルール、慣習、常識。対象の理解の仕方。
エスノメソドロジー
規範は誰のもの?→研究者はもちろん関心がある。他方、これは研究者のみが取り上げうる問題ではなく、人々が生活する中で日々直面し、解決している(時に失敗する)問題でもある。それを記述していくという研究方針(エスノメソドロジー)、人々の「やり方」を通して、人々の社会の理解を見ていく。
(他に「ズレ」をみていく方法もある)
注意:ふつう方法論は研究者が用意するものだが、エスノメソドロジーでは、それは人々が日常生活の中で既に用いているものだとする。したがって、エスノメソドロジーには研究者が事前に用意するような類の「方法論」はない。
その後、ワークショップを行いました。とあるビデオデータを元に、その会話から分析するものでした。
レリヴァンス問題(「なぜ、いま、それを」(why that now?))どのように(How?)
私たちの行為や記述は、他に色々できるところからひとつを選択した結果である。他でもなく「それ」をやる。それはなぜ?コンテクストの中に「それ」がどこに位置づけられ、前後とどのような関係を持つかを見ていく。
感想:社会学がとても興味深かったので、一人で興奮しておりました。すごく小さな単位での分析・知見を積み上げていくエスノメソドロジーの考え方は、純粋にすごいなぁと思いました。
遠隔で「手合わせ」をやるということについて、私が腑に落ちなかったのは、その機械を操作する先に相手がいると思うかどうかで色々変わるだろうなーと思ったところで、それがある力学的係数に反映されるのか、といったことでした。それだけで相手を感じるなら、もうそういったシステムはできてるだろうと思っていて、どちらかというと、それを提示するタイミングみたいなもの、フィードバックの速度といった観点なんだろうなぁと思って聞いていました。
「影メディア」については、面白いと思ったのはいわゆる「図と地」の議論の、図と地の中間ぐらいをうまく作ってる感じがしました。「誰かがいるような気がした」というのは、こういったシステムのフィードバックとしてとてもイイ線いってる証拠ではないか、と感じました。
「アバターと引きこみ動作」については、ちょっとうまく飲み込めなかったです。結果は出てて、いい結果がでてるのですが、それをどう解釈したらいいか…というのが私の中でよく分かりませんでした。
「アバターの視線による移動」については、システムとして面白いのですが、何かメンタルモデルの点でうまく形成できないような気がしていて、自分のキャラがどう見えているか気になるといったコメントはそれの糸口のような気がしました。
「顧客行動心理の調査手法「ご近所リサーチ」によるコミュニケーションデザイン支援事例」については、とても丁寧に調査・分析している点と、ちゃんと設計に反映され、実装できたところまで確認できた点がすごいなーと思いました。企業名義でやるなら、ここまで結果が出てないと、と思いとても参考になりました。
山崎先生と安藤先生の「ユーザーエクスペリエンスデザインのための発想法」は、質問もしたのですが、発想法のうちの発散フェーズに重点があったので、どういった解釈をすればいいのかなーと思って飲み込めてない自分がいます。質問に回答いただいた通り、主に学生向けの教育観点で、発散できないことに対する課題感からの発表だったとのことでした。ゲームストーミングという本にもある通り、アイスブレイク(発火)させて、発散(開幕)して、収束(閉幕)して、といった流れがあって、自分が実務寄りかつ(実装方法を気にしてしまう)エンジニア寄りなのもあり、どうしても収束に目がいってしまったりしました。
視点をズらすと、自分に合ったアイデアを広げる方法を知りましょう、といった話だったと思っています。これは賛成で、やっぱり向き不向き、好みなどがあると思うので、そこは色々やってみるというブートキャンプは必要なんだろうなーとおもいました。どこかコミュニティでやってみるか……(昔「ブレスト祭り」というのをやったのですがw) ちなみに私は他人を巻き込むタイプの発想法が好みです。
社外勉強会のコンセプトや試みを説明するのはややこしいのですが、何とか理解してもらいつつ、どこら辺を目的・目標としてワークショップをやったのか、ということを話すのは、なかなかチャレンジングでした。それを繰り返し話すことで、自分の中で明確化されていく何かがあり、発表してよかったかな、と感じました。発表前は毎回、緊張し過ぎて死にそうになるのですが。
ワークショップというのは、最近とても流行しています。多くは、手法伝達の手段のひとつとして、そして成功体験をするためのツールとして、とても有効に活用されています。その中で、「現場」を志向したコミュニティとして、そのまま応用しようとすると失敗する、または、失敗を恐れてそのまま実践しない、といった状態に陥ってしまう危惧がありました。
そういった恐れや不安について、解きほぐしていく場として、コミュニティは機能できるのではないかと考えています。誰かが抱えた課題は、一緒に解決していけばいい。解決はしなくとも、適切に失敗すればいい。適切に失敗するために、どこまで準備すればいいのだろう。これが去年ずっと考えていたことでした。それが今回の発表になっています。
社会学について、ちゃんと触れることができたことが一点。また、3年連続でなんとかコミュニティ名義の発表ができたことが一点。この2点がとても大きかったと感じました。
期間中、貴重なご指摘をいただいたり、質問等に回答いただいた皆様に感謝いたします。来年のヒューマンインタフェースシンポジウム2014は、京都でしたっけ…?また参加できるように頑張ります。
気になったところをピックアップしつつ、記録を残しておきたいと思います。以下色々メモから起こしていますが、正確なところは発表者の方にお問い合わせください。(この記事を引用されると意味がズレる可能性があります)
10日:「講習会コース4 共創と評価 〜質的研究からはじめよう〜」
システムの評価は、ヒューマンインタフェース研究において不可欠な作業の一つです。しかし、一口に評価といっても実際には簡単にいかないのが現実です。特に、人々の生活の中で使われるシステムを捉え、評価することはとても難しく思えます。この講習会ではシステム評価のあり方について、質的研究法の一つであるエスノメソドロジーの考え方や“場”を捉える観点を理解することを通して、改めて考えたいと思います。エスノメソドロジーは、人々の営みの現場をフィールドワークによって捉え、得られたデータの分析を通して、共創の場で行われる行為の意味や方法論を明らかにしようとするものです。本講習会では、グループに分かれてのミニワークショップを予定しております。また、工学的な方法と社会学的な方法による共同作業のあり方についても議論したいと思います。最初に安藤昌也さん(千葉工大)から、HI研究における評価の発展段階の話がありました。年代ごとに、40sではシステム信頼性フェーズ、50sではシステムパフォーマンスフェーズ、60sではユーザーパフォーマンスフェーズ、70sからはユーザビリティフェーズ、と発展してきました。そして2000年代以降からユーザーエクスペリエンスフェーズとなり、ここは現在模索中であるという話でした。
ここで、安藤さんが「評価」そのものに対する観点として3つのタイプ分けを行なっていました。イノベーションの理想である「形成的評価」や「総括的評価」がこれまで求められてきていたが、これからユーザーエクスペリエンスについて評価する場合は、イノベーションの現実たる「埋め込まれた評価」をこれからは扱う必要がある、という主張だったと捉えています。
(開発されたあるイノベーションが、いかに現実の場で作用・既往するのかを、現実の場に居合わせる様々な人々の実践をデータとして仔細に観察・分析すること、評価はあくまでも変革がまさに起きつつあるその場に居合わせる人々にとっての意味を中心に構成されなければならない。)
名称 | 形成的評価 | 総括的評価 | 埋め込まれた評価 |
---|---|---|---|
焦点 | イノベーション | イノベーションの効果 | 社会的実践 |
相手 | 開発者 | ユーザー | ユーザー(開発者も) |
目的 | イノベーションの改善 | イノベーションが受容される/判断する | どのようにイノベーションが 使われているか理解する |
方法 | 観察/インタビュー/調査 | 実験 | 観察/インタビュー |
時期 | 開発中 | 初期開発の後 | 開発中と開発後 |
評価結果 | 技術の変更リスト | 対称的なグループの対策表 | エスノグラフィ |
その後、専門が社会学の秋谷直矩さん(京都大)のレクチャーがありました。社会学に対して全く素養がなかったので、とても大きな学びを得ました。専門は社会学、特にエスノメソドロジー・会話分析を専門とされているということでした。
社会学の探求対象として「ホッブズ問題」がある。目的に対して合理的に振る舞う(自然状態)があるが、それだと、血で血を洗う闘争状態(万人の万人による闘争)になるのではないか?→でも実際はそうなっていない…はて?→社会秩序はいかにして可能か、私たちはどうして他者と「いられる」のか?コンフリクトはあるのだけれど、なんとか生活することができている。
社会学は対象が様々過ぎる、かつ、アプローチが様々過ぎる。あまねくものに社会秩序がある。適切に振る舞う。→規範があるから、社会秩序がある!!
規範とは、私たちの振る舞いを特定の向きに方向づけるなにか。対象は幅広い。明文化された・明文化されていないルール、慣習、常識。対象の理解の仕方。
エスノメソドロジー
規範は誰のもの?→研究者はもちろん関心がある。他方、これは研究者のみが取り上げうる問題ではなく、人々が生活する中で日々直面し、解決している(時に失敗する)問題でもある。それを記述していくという研究方針(エスノメソドロジー)、人々の「やり方」を通して、人々の社会の理解を見ていく。
(他に「ズレ」をみていく方法もある)
注意:ふつう方法論は研究者が用意するものだが、エスノメソドロジーでは、それは人々が日常生活の中で既に用いているものだとする。したがって、エスノメソドロジーには研究者が事前に用意するような類の「方法論」はない。
その後、ワークショップを行いました。とあるビデオデータを元に、その会話から分析するものでした。
レリヴァンス問題(「なぜ、いま、それを」(why that now?))どのように(How?)
私たちの行為や記述は、他に色々できるところからひとつを選択した結果である。他でもなく「それ」をやる。それはなぜ?コンテクストの中に「それ」がどこに位置づけられ、前後とどのような関係を持つかを見ていく。
感想:社会学がとても興味深かったので、一人で興奮しておりました。すごく小さな単位での分析・知見を積み上げていくエスノメソドロジーの考え方は、純粋にすごいなぁと思いました。
11日:「午前111 共創・引きこみ」
共創のセッションは聞いていたのですが、イマイチ腹落ちせず(話者が悪いわけではなく、私のメンタルモデルができていない分野だったため)、私の感想のみを書いておきます。遠隔で「手合わせ」をやるということについて、私が腑に落ちなかったのは、その機械を操作する先に相手がいると思うかどうかで色々変わるだろうなーと思ったところで、それがある力学的係数に反映されるのか、といったことでした。それだけで相手を感じるなら、もうそういったシステムはできてるだろうと思っていて、どちらかというと、それを提示するタイミングみたいなもの、フィードバックの速度といった観点なんだろうなぁと思って聞いていました。
「影メディア」については、面白いと思ったのはいわゆる「図と地」の議論の、図と地の中間ぐらいをうまく作ってる感じがしました。「誰かがいるような気がした」というのは、こういったシステムのフィードバックとしてとてもイイ線いってる証拠ではないか、と感じました。
「アバターと引きこみ動作」については、ちょっとうまく飲み込めなかったです。結果は出てて、いい結果がでてるのですが、それをどう解釈したらいいか…というのが私の中でよく分かりませんでした。
「アバターの視線による移動」については、システムとして面白いのですが、何かメンタルモデルの点でうまく形成できないような気がしていて、自分のキャラがどう見えているか気になるといったコメントはそれの糸口のような気がしました。
11日:「ポスター発表」
「映像コンテンツと香りが体感温度上昇に及ぼす影響」について興味を持ちました。結局、香りがない映像コンテンツでも体感温度に変化があったので、香りに意味がないのではないかと思いきや、違うコンテンツでは明確な差があったりして、結果的に実験環境(冬にやったかなど)の別のパラメタがありそうという議論をしました。どうなのかは今後の実験で明らかになると思うのですが、楽しみです。「顧客行動心理の調査手法「ご近所リサーチ」によるコミュニケーションデザイン支援事例」については、とても丁寧に調査・分析している点と、ちゃんと設計に反映され、実装できたところまで確認できた点がすごいなーと思いました。企業名義でやるなら、ここまで結果が出てないと、と思いとても参考になりました。
11日:「午後132 UX」
浅野先生の「サービスデザインを学ぶためのワークショップ」については、もーあの回数できるのは浅野先生しかいないのでアレですが、それはさておき、ダブルループの概念であったり、学ぶことが多かったです。そもそもダブルループについては、初めて聞いたのは某papandaさんのLTか何かだった気がして、あー懐かしいなーこういうところもエンジニアコミュニティとクロスオーバーするのかーと悶々としながら聴いていました。山崎先生と安藤先生の「ユーザーエクスペリエンスデザインのための発想法」は、質問もしたのですが、発想法のうちの発散フェーズに重点があったので、どういった解釈をすればいいのかなーと思って飲み込めてない自分がいます。質問に回答いただいた通り、主に学生向けの教育観点で、発散できないことに対する課題感からの発表だったとのことでした。ゲームストーミングという本にもある通り、アイスブレイク(発火)させて、発散(開幕)して、収束(閉幕)して、といった流れがあって、自分が実務寄りかつ(実装方法を気にしてしまう)エンジニア寄りなのもあり、どうしても収束に目がいってしまったりしました。
視点をズらすと、自分に合ったアイデアを広げる方法を知りましょう、といった話だったと思っています。これは賛成で、やっぱり向き不向き、好みなどがあると思うので、そこは色々やってみるというブートキャンプは必要なんだろうなーとおもいました。どこかコミュニティでやってみるか……(昔「ブレスト祭り」というのをやったのですがw) ちなみに私は他人を巻き込むタイプの発想法が好みです。
12日:「ポスター発表」
自分の発表としては「ワークショップを創ることで学ぶ -社外勉強会コミュニティの活動報告-」と題して、hcdvalueとDevLOVEの各社外勉強会コミュニティで行なったワークショップについての活動報告を行いました。私の資料はDropBoxにあげているので、見たい方はどうぞ。(予稿、A0ポスター)社外勉強会のコンセプトや試みを説明するのはややこしいのですが、何とか理解してもらいつつ、どこら辺を目的・目標としてワークショップをやったのか、ということを話すのは、なかなかチャレンジングでした。それを繰り返し話すことで、自分の中で明確化されていく何かがあり、発表してよかったかな、と感じました。発表前は毎回、緊張し過ぎて死にそうになるのですが。
ワークショップというのは、最近とても流行しています。多くは、手法伝達の手段のひとつとして、そして成功体験をするためのツールとして、とても有効に活用されています。その中で、「現場」を志向したコミュニティとして、そのまま応用しようとすると失敗する、または、失敗を恐れてそのまま実践しない、といった状態に陥ってしまう危惧がありました。
そういった恐れや不安について、解きほぐしていく場として、コミュニティは機能できるのではないかと考えています。誰かが抱えた課題は、一緒に解決していけばいい。解決はしなくとも、適切に失敗すればいい。適切に失敗するために、どこまで準備すればいいのだろう。これが去年ずっと考えていたことでした。それが今回の発表になっています。
全体の感想
とても刺激的な4日間でした。実はこの期間中夜に予定を入れてしまっていたのですが、夕方にガス欠を起こしてしまい、今後学会参加時は夜に予定を入れないようにしようと思いました。体力や脳をかなり使います……社会学について、ちゃんと触れることができたことが一点。また、3年連続でなんとかコミュニティ名義の発表ができたことが一点。この2点がとても大きかったと感じました。
期間中、貴重なご指摘をいただいたり、質問等に回答いただいた皆様に感謝いたします。来年のヒューマンインタフェースシンポジウム2014は、京都でしたっけ…?また参加できるように頑張ります。
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