ここ2年くらい、特に今年(2014年)は「UX」と「組織」が併記されることが多くなってきた。おそらく「UXに取り組む人が変わった」、「UXに取り組んできた人達のステージが変わった」、「UXに取り組む際の対象が変わった」のAND/ORだと思っている。

UX に真面目に取り組める組織づくりについてのスライドを公開しました (2012年12月)
長谷川敦士氏「単なる利用者のニーズではなく、何に価値を感じるのか本質的に捉えて、そこに向かうことがUXの肝」  (2013年3月)
「Lean UXとは組織文化をデザインすること」監訳者が明かす、UXデザインの本質 (2014年3月)
「UXと組織デザイン」について考える。HCD-Netサロン レポート  (2014年9月)
UXデザインのための、ポストデザイン思考 (2014年12月)
UXデザインとは、組織論である (2014年12月)
組織の中で実践するUXデザイン (2014年12月)
UXは「ユーザーを正しく理解」だけじゃない――組織のUXデザインを、Gaji-Laboの山岸さんに聞いた “UX王子”が語る、KPIではなく人間中心設計(HCD)の観点から見るUXデザイン (2014年12月)
納期中心デザイン・KPI中心デザインの現場で、UXデザイン(人間中心デザイン)をするということ (2014年12月)



コミュニティで練度を上げつつ仕事で活かそうとしていた身として、色々考えてみたのでまとめてみたい。なお、以下は特定の個人や組織、考え方を批判するものではない。
ふりかえると、2012年までは「UI/UX」という表記の問題があったり、「UXって何?」という話が多数をしめてしまっていたように思う。2011年にUX白書が翻訳されたりしていたが、(翻訳であるということと、参考文献がない状態で言葉が出ていることからの)読みにくさがあったし、それが「UXに興味ある人」に読まれるにとどまっていた(要出典)から、それは当然のことのように思える。


まず、「UX」という言葉について考えてみる。
先に挙げたUX白書で記載されているように「UX」という言葉に対しては、「現象としてのUX」「研究分野としてのUX」「実践としてのUX」が混在している。これは、医療分野における言葉で例えれば、「健康」「医学」「医療行為」が一つの言葉に混在していることになっている。
私としてはそれぞれ「UX(ユーザー体験・経験)」「UX研究・UXD研究」「UXD(UXのためのデザイン)」と分けられ、それぞれで理解が進むことを望むが、それはこちら側の都合であり、なかなか難しいように思う。


39


徐々に「UX」と「組織」との関係について話を戻したいが、「UXデザイン」についても整理したい。
この場合の「UX」は「実践としてのUX = UXのためのデザイン」を指していると考える。そしてこのUXデザインも複数レイヤーにまたがっている。
言葉にするとややこしいが、UIのデザインをしている人だって、それと人のインタラクションを考えている人だって、ユーザーシナリオを考えている人だって、それらを共通認識としてデザインするための組織を考えている人だって、みんな「UX」を考えていると思う。(むしろ「デザイン」していてユーザーのことを考えていない例が知りたい。) だから「全部UXデザイン」になってしまう。
59

上記の図も言葉がおかしいところがあるが、大意として「UXデザインには複数レイヤーがある」ということを言いたかったのだった。
 (批判する意図はないという前提を置いた上で、)「スマホでウェブサイトを作る人増加中! UIリニューアルのカギは「モバイル対応」 Jimdo × UX侍」といった記事では、UXを切り口としてUIデザインの話をしている。つまり、あるレイヤーでの話をしている時、自然と上下のレイヤーを意識し、話に出てくるのだろうと思う。
また、実際のプロダクトのUI、サービスのタッチポイントは事業提供者側がコントロール可能な部分だが、ユーザーシナリオなどは仮説であって、実際にユーザーがどう思うかはコントロール不可能な部分だという点も付記しておきたい。「ユーザーの気持ちをデザインする」というのはユーザーに対して傲慢な言い方になってしまい、 「できるだけユーザーの気持ちに沿ったUIやタッチポイントをデザインする」といった意味で私はUXデザインを捉えたい。

 
本題となる「UX」と「組織」についてだが、ここにも様々な分割の仕方があるように思う。
一つは「UXデザインができる組織をつくる」という話と、「組織自体をデザインする」という言葉が絡み合ってしまっていることだ。
ここで言う「組織」が事業を営む組織であるとすれば、組織自体をデザインできるのは、経営者だろう。大きな組織になれば、いわゆる中間管理職も組織自体をデザインする側となりえるが、そのような部門にするかといったものは、経営陣の仕事であると思う。UXデザインは、そこまで踏み込む話になったのだろうか。
と考えると、UXと組織について話している人が経営陣になりたいと考えているようには思えない。どちらかと言えば「UXデザインができる組織をつくる」といった話なのだと感じる。それに必要なことを考えていくと、どう組織を変えて行くかという意味で役割としては「チェンジエージェント」「コーチ」といった話になっていくのだと考えている。
もちろん、これらは不可分であり、結局はUXデザインを営む人が経営について学ぶ必要がある、といった議論はあると思っている。私は似てるようで異なると思っているが、それは私の意見であり、一緒だと思う人の考えを妨げるものではない。


もう一つ、気になっているのは「組織」に対する大きさの概念がバラバラだと感じる点だ。
例えば会社を組織として捉えるにしろ、数名しかいない会社から、部門が複数ある会社まで、様々だ。その人が「組織」と言った時、それは何人程度の、何部門ある「組織」を前提にしているのだろう、と思うことがある。
その点では、エンジニアが中心となって広まっている「アジャイル」の方がもう少し揃っているように思う。アジャイルでは「チーム」という単位で扱われ、「組織」という単位は大きく扱われないと考える。「チーム」はwikipediaによれば「共通の目的、達成すべき目標、そのためのアプローチを共有し、連帯責任を果たせる補完的なスキルを備えた少人数の集合体である。」とされている。まずはこの単位での実践をして、それがもっと大きな単位に波及していく。そんな話が必要なのではないだろうか。


以下、私の個人的な意見を述べる。
あるプロジェクトをゴールに持っていく方法は一つではない。UXデザインだろうが、アジャイルだろうが、MBAだろうが、そのプロジェクトやチームによって、必要とされる方法を取れればよいと思う。ただ、私はUXデザインが好きだ。「いいプロダクト」「いいサービス」を作るために、自分が良いと思う、ある種信じられる方法で進められたら素敵だと思っている。
結局は「信じる」という行為が出た時点で、第三者からはある種の宗教だと言われるかもしれない。でも、自分やチームが信じていてゴールに辿りつけるのなら、周りに何を言われてもいいな、と思う。